/  TOP  / 

2003年08月07日ログ。   

●2003/8/7

 北海道の七夕は8/7の今日だ。どうしてかは知らないけど。

 そして北海道の七夕には、「子供達が集団で、夜に空き缶で作った行灯を持って近所の家々を回り、玄関前で『お菓子とロウソクを出せ、出さないとイタズラするぞ』みたいな歌をうたう行灯行列」という、ハロウィンに酷似した風習がある。誰が北海道にそんなパクリイベントを作ったんだ。個人的にはクラーク博士あたりが怪しいと思う。青年よ大志を抱け、少年はハロウィンくらい体験しておけ、とか言ったんだろう。つくづくお節介な男だ。

 ていうか本当に北海道だけなのか。最近まで全国的に行われてると思ってた。

-------------------------

 俺が小学生だった時も、もちろん毎年そのイベントに参加した。割と楽しかったと記憶している。子供にとっては夜に出歩くだけでも冒険だ。お菓子を食べながら、そしてもらったロウソクを行灯に補充しながら、誰に咎められることも無くみんなでワイワイと夜の町内を練り歩ける七夕は、北国の短い夏休みのメインとなる、胸が躍る一夜だった。

 

 ある年の七夕。その日も行灯行列は行われていた。

 何軒か回って辿り着いた近所の医者の家の前。そこには、前年まで一緒に参加していた女の子が住んでいた。その子は中学生になったので、この年から参加できないのだ。ここのお姉ちゃん、去年まで一緒に回ってたけど今年は出られないんだね。可哀相にね。そういう気持ち。

 家は医者だけあって、近所で一番の豪邸。お菓子もたくさんくれそうだ。明かりは点いているので、中には誰か居るらしい。せえの、で声を合わせて歌い始める。

♪ロウソク出せ、出せよ
♪出さないと、カッチャクぞ(ひっ掻くぞ、の意)
♪おまけに食いつくぞ

 しばらく経っても、中からは誰も出てこない。徐々に歌声が大きくなっていく。そうしているうちに、あろうことか家の明かりが消えた。居留守を決め込むつもりか。なんだよ!よーし、そっちがその気なら!一層ヒートアップする子供達。悪ノリし始めて歌声もどんどん大きくなる。ロウソク出せ!ロウソク出せよ!o i! o i! o i! いや、オイパンクが流行るのは、それから5年くらい後なのだが。心情的にはそういう感じ。

 何分くらい歌っただろうか。みんなの熱唱が伝わり、ついに玄関のドアが開く。中から現れたのは、見慣れたあのお姉ちゃん。あはは、俺達の勝ちだね。さあロウソクをもらおうか。いたずらっぽい笑みを浮かべる子供達。しかし、どうも様子がおかしい。お姉ちゃんの目が三角になっている。それはもうマンガのように三角。魔神だ。魔神が乗り移ったに違いない。何だ?どうしたんだろう?一斉に頭からハテナマークを生やした子供達を相手に、魔神が口を開く。

 

「あんたら、うるさいのよ!」

 

 一同、呆然。

 

「そんなにロウソクが欲しけりゃくれてやるよ!」

 仏壇から持ってきたであろうロウソクの箱から、掴んだロウソクを投げつける。飛び散るロウソク。状況が飲み込めぬまま逃げまどう子供達。

 その場は逃げ切ったものの、あまりにも見事なキレっぷりに言葉を失った一同。何とか理由を見つけたくて、「あのお姉ちゃん、本当は今年も来たかったんだね」という話に落ち着いた。楽しそうに行列しているのが気に障ったのだろう、と。でも俺は心の中で「ただうるさいからムカついただけなんだろうな」と思った。いま考えても、たぶんそれが正解であろう。この事件以降も行灯行列は毎年行われたが、子供達がその家を再び訪れることは無かった。

 

 

 それからおよそ15年後、あのお姉ちゃんは、どこぞの社長夫人になった。医者の娘というだけで、少々おかしな人間でも社長夫人になれるという不平等なシステムがまだ社会に息づいていることを知らせる結婚の報は、近所に住む同世代の人間に、あの恐怖の一夜を思い起こさせるとともに、深いため息をつかせた。

 俺のエリート嫌いは、このあたりに由来していると思う。

 



 /  TOP  / 

 

TOP